メリメリ王国 MERIMERIと 亀裂を広げ誕生した
エロ讀物サイト 【メリメリ王国】 R-18 *通報シナイデ~

職業、裏ビデオ屋

― 愛した少女を生業に年収一億円を稼いだ男
著・孤天我神
第二部 あんぐら堂の誕生

「美しい少女ほど、コレクションの対象とするのにふさわしい存在はあるまい」

 これは、かのフランス文学者・澁澤龍彦が、著書『人形愛序説』に記した言葉である。

 澁澤において、少女のえもしれぬ魅力の正体とは、少女という存在が持つ「本質的な客体性」にあった。ここでいう本質的な客体性とは、つまり純粋な「モノ」であるということ。大人の女が自らの欲望を持った、いわば男の自由にならない主体的存在であるのに対し、少女はその無知さ、無垢さゆえに純然たる「モノ」、いわばコレクションされた人形として、男の欲望を全てその身に引き受け、あたかも鏡のように欲望を反射してくれるというわけだ。

 もちろん、そのような少女は男の観念の中にしか存在しない。つまり、現実の少女は決して純粋な「モノ」でも、コレクションの対象物などでもない。それは澁澤も認めていることだ。しかし、そもそも男の性欲とは、それ自体が観念的なものである。実際、澁澤はこうも続けている。

「少女を愛するものは、愛する対象と主体が同一化している」

 ようするに、少女愛とはその実、自己のうちに抱いた観念としての少女を愛しているに他ならず、それは一種の自己愛のようなものに過ぎないということである。その真偽のほどは筆者には分からない。だが、あんぐら堂の生い立ち、そして少女愛――ロリータ・コンプレックスへの覚醒に至るエピソードを聞くにつけ、澁澤の分析はあながち的外れではないようにも思う。幼少期、乱暴な父への敵愾心から育まれたマザーコンプレックス、そして中学生に至り、自己評価と他者評価がズレていく中で肥大した自己愛と異性恐怖、そうした諸々が、あんぐら堂をやがて観念の世界に耽溺させ、無垢なる「モノ」としての少女へと固執させるに至ったと想定することは、決して牽強付会ではないだろう。

 とはいえ、この伝記において、そうした分析じみた論考はあまり意味を持つものではない。原因がなんであるにせよ、あんぐら堂は少女を愛するようになり、「少女と恋愛したい」という妄執に取り憑かれた。そして、その妄執こそが、その後、彼の人生を大いに狂わせていくことになったということは、なにかの教訓でも、あるいは寓話でもなく、端的な事実なのだ。

 18歳、人生最初の分岐点。高校卒業を控え、あんぐら堂は進路に悩んでいた。




「卒業が迫ってきて、将来をあらためて考えるようになりました。花村萬月のようにバイクで日本を放浪しようか、なんて途方もないことも考えたりしましたが、あまりピンとこなくて。なんていうか、どれも時間の無駄のように感じられたんです」

 いわゆる進路相談というものを受けたこともなかったし、聞き分けのいいサラリーマンになるための将来設計などにも興味はなかった。しかし、無為徒食の日々を卒業後に過ごすほどの余裕があるわけでもない。考えうるいくつかの選択肢、そのうちの一つは「ロリコンショップで働く」というものだった。

「自分の好きなものの近くで働けたらいいな、と。実はコアマガジンの面接を受けようと本気で思っていたこともあるんですよ」

 コアマガジンといえば、筆者の古巣である。伝説のロリコン雑誌『アリスクラブ』の発行元であり、およそエロ本出版社の中では最大手の部類。そうした場所でなら自分のマニアックな嗜癖を活かすこともできるかもしれない、そんな思いもあった。しかし――

「やっぱり自分が一番好きなものは、映像や本の中の少女ではなく、実物の少女だったんです」

 そう、あんぐら堂にとって、第一義はやはり「少女と恋愛する」ことだった。今ほどは向かい風は強くなかったとはいえ、ロリコンが呪われた性癖であることは当時にしても同じ。許されざる欲望を抱いたものとして、このまま若くして死んでも構わない、そんな自暴自棄な思いさえ抱いていたが、一方で「どうせ死ぬなら少女と一度でも恋愛してから死のう」という固い決意もあった。そのためにも、まずは少女と出会わなければならない。だが、どうやって?

「当時はネットも浸透していませんでしたから、出会い系でっていう発想もありませんでした。そんな中、『アリスクラブ』を読んでいたら、『児童館の職員として働いてみた』というルポがあったんです」

 またしても『アリスクラブ』――

「その記事には、実際に児童館で働いて、そこで出会った少女との会話などが書いてあって、読んだ瞬間、まさにこれじゃないか! と膝を打ちましたね」

 当時、『アリスクラブ』がいかに世のロリコンたちの拠り所であったか、その一端が伺えるエピソードである。進路に悩んでいたあんぐら堂にとって、その記事はさしずめ天啓。しかし、実はあんぐら堂がこの記事に魅せられた理由は、他にもあった。

「官能小説とかが描くロリコンってなんか鬼畜っぽいのが多くてずっと嫌だったんです。僕は女の子が嫌がっていたりするのは少しも見たくないわけで。その点、この記事は女の子との関わり方が自然で、それがすごく良かったんです」

 誤解のなきようここで強調しておけば、あんぐら堂を含むほとんどのロリコンは、少女を欲望してこそいれ、少女をレイプすることを欲望しているわけではない。こんなこと、あえて書くまでもないかもしれないが、世の中には「少女と会うために児童館の職員として働く」といった記述に、脊髄反射的に「レイプ魔が児童館に潜入している」といった曲解を行う人間が少なくない。しばしば少女の強姦殺害事件が起こると、あたかもロリコンはみなレイプ魔とでもいうかのような偏見が直ちに振りまかれがちだが、これはロリコンとレイプ魔という二つの属性を混同した考えである。

 事実、あんぐら堂においても重要なのは、「少女との恋愛」であった。

「僕は普通に少女と遊びたいだけですから。だから求めていたのは、相手も性の目覚めが早い子で、僕との関係を望んでいるという状況なんです。性的な関心がない子も無理でした。いやらしいってことがわかっている少女に、僕が色々と教えたい。言ってしまえば、小学生の頃に果たせなかったことをしたかったんです」

 少女と自然に出会え、なおかつ友好的にコミュニケーションが取れる場所、そう、『アリスクラブ』で書かれていた児童館のような――あんぐら堂が探していたのはそういう場所だった。そんな中、あんぐら堂は、ある大学のパンフレットに目を止める。

「色々と調べていく中で、『児童研究部』という活動をしている大学を発見したんです。大正大学という、まあFラン大学だったんですが、どうも一教科受験で入れるらしいことが分かり。大学に行きながら児童と触れ合える、最高じゃないか、しかも、ここなら今からでも余裕でいけるぞ、と思って、そこを受けることにしたんです。そしたら受かって、あれよあれよと大学生になることになりました」

 おそらく、少女愛に取り憑かれ、『アリスクラブ』を愛読していた当時のあんぐら堂少年にとっては、「児童研究部」という言葉の響きは、さぞかし甘露なものに思えたことだろう。しかし、所詮は大学の活動。もちろん、そこに「児童との恋愛」という活動要綱は含まれていない。

「児童研究部っていうのは、まあサークル活動の延長みたいな感じでした。幼稚園が併設されたお寺みたいなところに行って、そこにやってきた小学生の子供たちと触れ合いつつ児童心理を研究しよう、というとこで。まあ、いざ入ってみたら、思っていたのとは若干違いましたね。僕はてっきり部員はみなロリコンばっかだろうと思い込んでたんです。そしたら普通に女性が多く…、まあ当たり前ですよね。研究部ではすでにコミュニティも出来上がってて、まるで馴染むこともできませんでした。あ、俺は児童研究部にすら馴染めないのかと思って、あの時はかなりヘコみました」

 結局、せっかく入学した大正大学は数カ月で中退。「自分はもともと偏差値60くらい」という歪んだ自負も、あんぐら堂に通学の継続を拒ませた。そもそも少女との恋愛のために入った大学である。それが少女と恋愛できないのであれば、もうそんな場所に用はない。ロジックは明快。しかし明快すぎる論理は、どこか狂人を連想させる。おそらく、ここが狂気の一丁目。カタストロフの兆しは、まだなかった。




 さて、学生でなくなった以上、働かなければいけない。少なくともアルバイトくらいはしなければ。そんな折、弟が小学校から持ち帰ったあるチラシが目に止まった。

「そのチラシには、市の小学校で放課後に学校開放みたいものを行うから、その見守りのバイト職員を募集しています、ということが書かれていました。笑いましたね。わざわざ大学に入ってまで求めていたことが、こんな身近にあったんですから」

 すぐに連絡し、面接を受けた結果、採用。それは本当に「見守り」の仕事で、つまり、放課後に校庭で遊んでいる児童たちの安全を見守り、なおかつ時には彼らに介入し、遊びの提案をしたり、ドッジボールなどのスポーツの審判を務めたりするというものだった。それは、まさにあんぐら堂が思い描いていた理想の環境だった。

「本当に楽しかったですね。高学年くらいの子たちだと懐いてくれるような子もいて。もちろん、すぐに恋愛という感じにはならなかったですけど、日々は充実してました」

 念願だった「少女と自然に出会える環境」を手にし、心が満たされていく一方、そのアルバイトのかたわらで、あんぐら堂は新たな趣味も発見していた。90年代末当時、まだまだマイナーな空間だったインターネット上においては、日記サイトという、今でいうブログの前身のような形式のサイトが流行していた。日記サイトでは、それぞれの趣味に応じて、テキストやイラスト、小説などが公開されていたのだが、その中には、当時すでに主流メディアにおいて居場所を失っていた、ロリコンたちの日記サイトも含まれていた。

「僕は大学に入った時にノートPCを買ってもらっていて。で、色々とネット空間を探索していたところ、ロリコンたちの日記サイトを発見したんです。もう毎日、夢中で読み込んでいましたね。文体とかも工夫されてて、軽妙で面白かったんですよ。たとえば、“少女と文通しているんだけど手紙に『お兄ちゃん変熊』みたいに書かれてて、『態』の字が『熊』になってたんです” とか、そんな他愛もない話ばかりなんですが、それがマニアにはたまらないっていう」

 いかに「ロリコンとは、選ばれたものたちのみが持つ、気高い性癖なのだ」という矜持を強く持っていたとしても、日常生活ではなかなか告白が難しく、また告白したとしても共感してもらいづらい性癖であることに変わりはない。あんぐら堂もまた、学生時代から、孤独を感じてこなかったといえば嘘になる。

「だから、同志と繋がれるってことがすごい嬉しかったんです。すぐに自分でも発信したくなって、サイト運営を始めました。まあ見守りのバイトで起こったような些細なことを書いていただけなんですが、それでもすぐに仲間たちが集まってきてくれて」

 インターネットを介し、世界に向けて発信しているとはいえ、当時の趨勢を考えると、それはごく少数のマニアの集いに過ぎなかったといえば過ぎない。しかし、だからこそ連帯感があったし、人にはいえない秘密を共有しているという共犯者感覚もあった。やがて、その関係はオンラインを飛び越え、オフ会なども開催されるようになる。

「オタクみたいな冴えない連中しか集まらないんですが、それでも同じものが好きというだけで、会えば話が盛り上がるんですよ。『俺も前はアリクラのドンちゃんに影響を受けて声かけとかしてたんだよね』とか、もはやマニアじゃなきゃ分からない話で通じ合えちゃう。お互いの日記サイトを褒めあったりもして、まさに居場所を見つけたような感じでした」

 当時を振り返り、「ものすごく承認欲求が満たされた」と回想する。それは官能小説誌に自身の作品が紹介された際の感動とも比肩するもので、あんぐら堂をますますその世界へとのめり込ませることになった。また、オフ会に参加し、ロリコンたちと交流を持ったことで、別角度からの発見もあったという。

「実際にロリコンの人たちと会ってみると、まあなんというか、ルックス的に恵まれてない人が多かったんですよね。いわゆるキモヲタ的な人が多くて。すると、僕なんかがイケメンになっちゃうんです」

 そう、これまであんぐら堂の顔立ちに関しては特段の記述をしてこなかったが、この男、なかなか端正な顔立ちをしているのだ。さらに180cmを越す高身長の持ち主で、肉付きもいわゆる細マッチョに該当するスラッとした体躯を誇るというのだから、スペックだけならナンパ師だと言われても遜色はない。たしかにファッションに関しては、あまりに脱力的であると言わざるをえないが、服装などいくらでも取り換え可能である。つまり、ことあんぐら堂に関しては、環境や状況に追い込まれて非モテを拗らせていたというのとは少し違うのだ。裏を返せば、そのぶん病みが深い、とも言えるのだが。

「まあ、実を言うと、まったく女子から声がかからなかったわけじゃないんです。高校時代に本を読んでいると、『その本、私も読んだよ』みたいに話しかけてくる文学少女もいました。まあ、可愛くないんであしらってましたが」

 ようするに、ワガママということか。

「なんにせよ、オフ会に参加したことで、ようやくずっと損なわれてきた自信が取り戻せてきたんです。ただ……、学校の見守りのバイトを一年続けてみて、『少女と恋愛をする』という目的の遂行においては、なかなか難しさも感じていました。特定の少女と二人きりになるシチュエーションがないですし、みんなの面倒を見ないといけませんから」

 いかに安住のコミュニティを発見したとはいえ、「少女と恋愛する」という目標を見失ったわけではない。見守りバイトで目標が達成できない以上、何か別の策を練る必要があった。それも、まったく思いもしなかったような別角度からの策を練らなければ。もっと奇抜で、もっと突拍子もない策を……。




 再び転機が訪れる。それは久しぶりに再会した高校時代の級友との話がきっかけだった。

「彼は一浪して早稲田に入ったんですけど、なんか彼が語る学生生活というのがすごい楽しそうで、それで羨ましくなってきちゃって。ちょうど話を聞いたのが夏だったんで、半年勉強すれば早稲田の社会科学部くらいならいけるんじゃないかと思い、また受験勉強を始めたんです」

 唐突すぎる変節。平凡な学生生活などに未練はなかったはずだが、一体どうしたというのか。あれほど強く執着していた少女愛を忘れて、リア充としてのキャンパスライフに目覚めたとでもいうのだろうか。むろん、そんなわけはない。級友の話を聞きながら、あんぐら堂の頭の中では、例によって奇妙なそろばんが叩かれていた。名門大学へ行くことで今度こそ少女と恋愛できるかもしれない、と。

「狙いは塾講師になることでした。大学で一人暮らしをして塾講師をやって生徒を家に連れ込む、このシチュエーションを思い描いたんです。まあ逆算ですね。そのためには少しでも偏差値の高い大学に入った方がいいですし、ならば分かりやすく早稲田だろう、と。大学生の塾講師と中学生の生徒はそういう関係になりやすいという噂も耳にしてはいたんで」

 見守りのバイト、日記サイトの運営と並行して受験勉強に勤しんだ結果、惜しくも早稲田には受からなかったものの、明治大学の政治経済学部に合格。この男、つくづく地頭がいい。しかし、いざ夢のキャンパスライフ(からの一人暮らし宅への少女連れ込み)が実現、というところで、あんぐら堂は大きな問題にぶちあたることになる。他でもない、金である。

「もともと裕福な家庭ではないですから。仕送りをもらいながら悠々自適のキャンパスライフなど、夢のまた夢。そもそも、塾講師のバイトしたところで、一人暮らしに十分なお金など稼げるかといえば、実際はかなり厳しい。あるいは、かろうじて稼げたとしても、少女とのデート代に割く金は残りません。カツカツの日々はいやですし、日記サイトも続けたいから時間だって欲しい。これには弱りました」

 本来、これらは大学を受ける前に、いや受験勉強を始める前に気づいておくべきことだろう。しかし、こうと決めたら周りが見えない猪突猛進な性格ゆえ、その時になるまで金のことなど考えてさえいなかったのだ。こうして、あんぐら堂は再び悩み始める。何か都合よく金を稼げる手段はないだろうか?

「そんな時に『カイジ』って漫画を読んだんです。カイジによれば、金を稼ぐにはそれ相応のリスクを背負う必要がある。もともと僕には少し単純なところがあるんで、それをまるっきり鵜呑みにしまして。じゃあ自分でもできるリスキーな仕事ってなんだろうって考えたんです」

 あらためて自分の日常を見回してみる。趣味は日記サイト。これはお金にはならなそうだ。じゃあ他に何があるか。ロリコン小説?  いや、だめだ、承認欲求は満たせても、原稿料など雀の涙、決しておいしい仕事ではない。もっと、もっとリスキーで、それでいてバックの大きそうな選択肢でなければ……。そうだ、自分は少女ものの裏ビデオが好きじゃないか。この少女もの裏ビデオで何か稼ぐ手段はあるんじゃないか。とはいえ、自分が裏ビデオを製作するにはノウハウがなさすぎる。すると……、できることは一つ、「転売」だ。

「まず手始めに、ネットで売られていた架空口座を買ってみました。で、親が持ってたハルシオンをヤフオクで売ってみたんです。そしたらサクッと一万円くらいで売れて。なるほど、これだ、と思いました。まぁ、最悪逮捕されても執行猶予でしょうし、背に腹は変えられません、少女との恋愛のためにも少女の裏ビデオを売ることを決意した瞬間です」

 今でこそ本人確認や違法商品の取り扱いなどに厳しいヤフーオークションであるが、当時、立ち上がったばかりの頃はまだまだ管理がザルだった。使用済み下着、海賊版DVD、架空口座、違法ポルノ、さらには睡眠薬に至るまで、ありとあらゆる品物がフラットに並び、現在のダークウェブかのごとき無法地帯ぶりを呈していたのである。あんぐら堂もまた、コピー裏ビデオの販路をヤフオクに求めた。取り扱う裏ビデオは全て、歌舞伎町の裏ビデオ屋で買い集めたもの。まさに「趣味が実益に」である。

「最初に販売した裏ビデオはいずれも歌舞伎町の裏ビデオ屋で趣味で集めてたロリ系のものです。それらをダビングし、漫画喫茶のPCからヤフオクにアクセス、さらに架空口座と偽名アカウントを使えば、まあ身元がバレることはないだろう、という算段でした。実際、当時は本人確認も甘かったですからね。で、実際に商品を出品してみたら、これが想像以上に値段が上がるんです。もちろん、自分で釣り上げとかもやったにはやりましたが。一ヶ月、ひたすらダビングと販売を繰り返しました。その結果、初月だけで100万以上の儲けになったんですよ」

 もちろん、これは総売上からVHSの購入費、商品発送に掛かった費用などを差っ引いた純利益の話である。20歳そこそこの、アルバイトしか経験したことがない少年にしてみれば、手にしたことのないような大金。みるみる増えていく預金残高に、正直「これはたまらん」という気持ちもあった。

「夢のようでしたね。必要だったお金も手に入り、ロリータビデオ屋になりたいという憧れも叶い。センスあるじゃん俺、みたいな。ちょっとした有頂天ですよ」

 時は1999年4月、後の「あんぐら堂」が誕生した瞬間である。同時にそれは、アウトローの父を憎んでいた母思いのロリコン少年が、もう二度と引き返すことはできない蛇の道へと足を踏み入れた瞬間でもあった。


(つづく)